No−168製作記 番外

CDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプを作ってみる





・近頃は、夜中、最近作ったヘッドフォンアンプにCDプレーヤーから直に信号を導いて聴くことが多い。

・のだが、やはりスピーカーで再生しないと体ごと演奏空間にワープすることは出来ない。

・ので、CDラインアンプを拵えてみたくなった。

・No−168CDラインアンプは既に廃用にしてしまったのだ。が、その抜け殻であるタカチOS49−20−33BXが、入出力ピンジャック、ボリューム、ミューティングスイッチ等の付属物もろともにジャンクになって転がっている。ので、これをリユースし、電源はNo−168の電源部をそのまま使うことにして、新たなCDラインアンプを拵えるてみようか、という気分になったのである。

・で、ミューティングスイッチは使わないので、この際、その穴を有効活用して、ヘッドフォンジャックをそこに取り付けることにしてはどうだろう。

・すなわち、ラインアンプ兼ヘッドフォンアンプとして拵えてみようかな、と。

・まずは回路。なのだが、アンプの負荷としてヘッドフォンの低い負荷も想定しつつこうしてみた。のだがどうだろう。

・初段差動出力をフォールデット・カスコード回路で折り返し、その一方をさらにカレントミラーで折り返してP−P合成して終段PPダーリントンエミッタフォロアに引き渡す。
・初段の動作点をId=2.33mAとして、2SK30ATMの裸のgmは規格表から2.4mS。オフセット調整用のソース抵抗50Ω(片側分)により電流帰還が掛かるので、初段のgm=2.4/(1+2.4*0.05)=2.14mS。差動なので本来はその1/2だが、2段目でPP合成され2倍になるので結局2.14mS。

フォールデット・カスコードのゲインは当然1倍。終段ダーリントンエミッタフォロアも1倍。

なので、低域におけるオープンゲインは2.14mS×2段目の負荷抵抗値。

・で、2段目の負荷抵抗値は、
フォールデット・カスコード回路の出力抵抗及びカレントミラー回路の出力抵抗、そして終段の入力抵抗の並列合成値だが、2SA872A及び2SC1775Aの裸の出力抵抗は動作点が2.33mAなので規格表からどちらもまぁ40kΩ、またどちらも裸のgm=40*2.33mA=93.2mSとして、エミッタ抵抗による電流帰還効果で出力抵抗は(1+gm*Re)倍なので、その出力抵抗は4.5MΩと8.9MΩ。終段の入力抵抗はダーリントン各TRのhfeをまぁ100としてアンプ出力が無負荷の場合は(6.8k+680)×100×100≒75MΩ。なので、これらを並列合成すると2.87MΩ。

・従って、低域でのゲインは2.14mS*2870kΩ=6142≒75.8dB。

・高域のゲインは、初段のgm*2段目出力ノードにぶら下がる寄生容量のインピーダンス になるのでQ6、Q7のCob等の寄生容量をとりあえず10pFと見込めば、電圧ゲイン=0.00214/(2πf*0.00000000001)なので、10kHzで72dB、100kHzで52dB、1MHzで32dB、10MHzで12dB。

・したがって、双方から見てオープンゲインのカットオフfcは7〜8kHz程度。

・そして、ループゲインが0dBとなる利得交点周波数は、gm/(2πfC)が=クローズドゲイン、すなわち=1/βになる周波数fなので、そのf=gm*β/(2πC)=0.00214*0.091/(6.28*0.00000000001)≒3.1MHz。

・私のような素人には利得交点周波数は3MHz以下が望ましい。と言われているので、僅かに高いのだがまぁいいだろう。
初段にもっとgmの大きいFETを起用すると、利得交点周波数はそれに比例して3MHz以上の領域に伸びてしまうので、この場合初段はgmの小さい2SK30でちょうど良いということである。あえてgmの大きいFETを初段に起用した場合、別途の位相補償Cを2段目に加える必要が出てくるし、その結果スルー・レートも小さくなってしまう。

・と、概算されるのだが、果たしてどうか。

LTSpiceで占ってみる。
・その結果はこれだが、オープンゲイン(赤)は低域で75dBと計算よりちょっと少ない。が、まぁこんなものだろう。高域のオープンゲインは10kHzでは70dBだが、100kHzでは52dB、1MHzで32dBと計算通りであり、ループゲイン(青)が0dBとなる利得交点周波数も3.1MHz程度とこれも計算どおり。なので、2段目出力ノードにぶら下がっている寄生容量も見込み通り10pFで良いようだ。と言ってもこの場合の寄生容量には素子の端子間容量は反映されているが、実機に組んだ場合に生じてくる配線間の寄生容量等は反映されていないので、実機ではもう少し寄生容量が増えるだろう。

・ともあれ、この結果、この2段目出力ノードにぶら下がっている寄生容量により利得交点周波数も上手いところに収まり、クローズドゲイン(緑)の1MHz超の領域にはピークも生じることなくスムーズに減衰していることから、この場合別途の位相補償措置は不要だろうということになる。

・が、Cobなどの質の悪い容量に頼っているのはいかがなものか。という意見は当然で、Cobをキャンセルするなどして、SEコンなど上質なCで位相補償するのが本当は良いのだろう。が、まぁ、素人なのでこの辺で妥協する。
・ところで、オープンゲインは2.14mS*2段目出力ノードのインピーダンスなので、アンプ出力に負荷が繋がってダーリントンエミッタフォロアの入力インピーダンスが低下するとオープンゲインは小さくなる。

・例えば負荷に最近のヘッドフォンでは普通と思われる30Ωが繋がった場合、ダーリントンエミッタフォロアの入力インピーダンスは30*10000=300kΩとなるので2段目並列合成抵抗値は270kΩに低下する。したがってこの場合のオープンゲインは2.14mS*270kΩ=578≒55
dB程度になるだろう。

という当たりを、LTSpiceでアンプ負荷を30Ω、300Ω、3kΩ、30kΩとしたパラメトリック解析で占う。
・オープンゲイン(赤)は、負荷30Ωの場合53.5dB、300Ωの場合69dB、3kΩの場合74dB、30kΩの場合74.9dBと、ほぼ想定どおり。

・で、この場合負荷30Ωの場合でも30dB以上のNFBが確保されるのでNFB量としても、また、電流供給能力的にも2段目が2.33*2=4.66mAなので、30Ω程度の最近の低インピーダンスヘッドフォンもこれで十分ドライブ可能だろう。また、スルー・レートについても最大で4.66mA/10pF=466V/uSが見込める。

・ので、まぁ、こんなもので良いかな。(^^)
・ということで、実際に組んでみる。
・その回路はこう。

・LTSpiceで占った回路そのものである。
・で、早速その動作が適切かどうかを方形波応答で確認する。

・上から10kHz、100kHz、500kHz、1MHzの方形波応答で、左はLTSpiceの占い波形、右が実機の応答波形。

・入力は1Vp−pであり、どの写真も下の波形が入力波形、上の波形が出力波形。
10kHz 10kHz 無負荷 下:0.5V/div 上:5V/div
100kHz 100kHz 無負荷 下:0.5V/div 上:5V/div
500kHz 500kHz 無負荷 下:0.5V/div 上:5V/div
1MHz 1MHz 無負荷 下:0.5V/div 上:5V/div
・こうしてみると、実機の方形波の立ち上がり、立ち下がりはLTSpiceが示すものよりやや遅い。のは、そもそも発振器の出力自体がなまくらであるということもあるが、実機では2段目出力ノードにデバイスモデルにはないもろもろの寄生容量がぶら下がるためでもあろう。が、それはそれで安定方向に働くので問題はない。

・で、結論的にも全く問題のない方形波応答である。
・というわけで、ケースに収めて出来上がりだ。

・めでたし、めでたし。(^^)
・と、行きたいところだったのだが、なかなかそう簡単には問屋が卸してくれない。のがこの世の常である。

・というのは、残念ながらDCオフセットとDCドリフトが実用許容範囲を超えて大きいのである。
・ので、せっかく組み立てたのに即解体ということではせつないので、原因を想定して対応策を考える。

・で、その原因だが、まぁ最大の原因は初段2SK30ATMのペア選別が下手だということだろう。(^^; が、さらに付け加えれば、初段の動作点が2.33mA、その動作時電圧が25Vで、初段2SK30の損失が60mW程にもなるところが大きい要因ではないかなぁ。。。

・なので、試しに電源を±12V程度の鉛バッテリーから供給するとDCオフセットもDCドリフトも小さくなるのである。

・だから、対応策としては、

・@No−168の電源の流用を諦めて、電池電源を使用した電池式CDラインアンプにする。
・Aレギュレーターを導入して、供給電源電圧を下げる。
・B初段にカスコード回路等を付加して2SK30にかかる電圧を下げる。
・C初段2SK30の動作電流を減らす。

・などが考えられるのだが、@、Aはそれぞれ違った意味でやや面倒。Bは基板上にスペースがない。Cは多少高域特性を悪くする。

・などとそれぞれ問題はある。が、とりあえず一番簡単にできるCを試してみた。

・結果、DCオフセットとDCドリフトは実用許容範囲に収まる感じになった。

・ので、とりあえずこれでいこうかなぁ。。。と思っていた。

   
・のだが、どこからか「たまには発想の違う対応策を採用してはどうだ。」と、悪魔の声が聞こえて来るのだった。(^^;

・何か?

・K教徒なら決して採用してはいけない「DCサーボでどうだ。」と。

・ええぇぇぇ。。。。!

・そうですねぇ。。。DCサーボであれば、アクティブサーボではなく簡単に導入できるパッシブサーボではどうでしょうか。。。(^^;

・で、回路はこうなった。
・抵抗1本とコンデンサー1個が増えただけである。で、これらは基板裏側に取り付けた。

・結果、このラインアンプはDCアンプではなくなり、ACアンプに堕落した。ということになってしまった。(^^;

・が、オフセットやドリフトはピクリともしないといった感じの状況になった。大体±1mV以内。まさに真空管プリアンプでAOCを取り付けた時と同じ感じ。

・で、音もまぁ。。。違うと言えばちょっと違うような気もしないでもないが、違わないと言えば違わないのではないか。といった感じ。(^^;
・なので、これで行こうかと殆ど思っている。

・のだが、一応このパッシブDCサーボの意味をLTSpiceで占っておく。

・先ずはゲイン&位相−周波数特性で、負荷を30Ω、300Ω、3kΩ、30kΩとパラメトリックに変化させて観る。
・で、結果はこれ。

・オープンゲイン(赤)には何の変化もない。下から負荷30Ω、300Ω、3kΩ、30kΩの場合。が、クローズドゲイン(緑)の方は10Hz以下で緩やかに低下を始め、1Hzで△5dB程度となり0.01Hzでは殆ど0dBとなっている。

・これがパッシブDCサーボ効果が働いた結果だが、それはループゲイン(青)が10Hz以下で上昇し、どの負荷の場合も10Hz以上に対してDC領域で20dB程度増加したことによるもので、要するにDC領域でNFBが20dB程度増加し、その結果DC領域の電圧ゲインが0dB(1倍)になったわけだ。

・だから出力のDCオフセットは入力オフセット電圧そのものに抑制される。
・過渡特性はどうか?

・と言うことで100kHz方形波応答波形を占う。
・何も問題がない。と言いたいところだが、どうもそうではない。

・応答波形の形自体には何も問題はないのだが、その電位がおかしい。

・というのは、この場合入力は±0.5Vで入力にDCオフセット電圧などは加えていない。にもかかわらず、出力は左の通り+10.5V、−0.5Vの11Vp−pになっている。

・なるほど。これがK式的に言うところのプラス5VのDC歪みの発生!ということなのかもしれない。

・そしてこのDC歪みがアンプ各部の動作点を不規則に揺さぶって、結果、静けさのない、賑やかで耳障りなACアンプ特有の音を醸し出す。

・ということ?(^^;;; ←だから言わんこっちゃない(−−)
・が、左は同様にLTSpiceが占う1MHzの正弦波応答波形。

・振幅もわざと2倍の±1Vp−p入力にしたので±11Vp−pになっている。

・で、この場合は全くDCオフセットが生じていない。すなわちDC歪みは生じていない。

・ということは、少なくとも1MHzの±1Vp−p正弦波入力までのスピードの信号入力ならば問題はない訳で、DC歪みの発生など、要するに過渡応答上の問題は、上の方形波のような超スピードの過渡的入力があった場合でなければ生じない。ということではないか。と、観じられる。

・であるならば、実際の音楽信号には方形波のような超スピードの信号はないので、現実的には何も問題ないと考えて良いのではなかろうか。

・大体においてCDには20kHz正弦波以上の信号は入っていないし。
・と、まぁ、そのように手前勝手に考えたいのだが、それではアクティブサーボならどうなるのだろう?という興味が湧いたので、下のようなAOC(もどき)の回路でオフセットコントロールした場合はどうなるのか?をLTSpiceで占ってみる。

・先ずはゲイン&位相−周波数特性で、負荷を30Ω、300Ω、3kΩ、30kΩとパラメトリックに変化させて観る。
・で、その結果がこれだが。。。

・ええぇぇぇ。。。。!?

・何故かオープンゲイン(赤)自体がが4、5kHzから低域に向かって減少し、それが100Hz以下ではアンプ負荷に関わらず一定になって、1Hz当たりでクローズドゲイン(緑)と同量となり、DCにおいてマイナス15dBに収束している。

・が、ループゲイン(青)もオープンゲインと平行を保ったまま低域方向へDCにおいてマイナス35.8dBまで減少していくため、結果、クローズドゲイン(緑)は低域方向へ10Hz程度までは20.8dBを維持するが、それ以下ではゲインを減じて、最終的にDCではマイナス15dBのゲインになっている。

・マイナス15dBとはすなわち0.176である。から、この場合、アンプ入力に加わったDC電圧は、0.176倍に抑圧されて出力されるということになる。パッシブサーボの場合は入力されたDC電圧はそのままで出力される(要するにゲイン0dB)であるのに対して、出力されるDC電圧が入力DC電圧未満に抑圧されるのがアクティブサーボであるわけだ。

・で、アクティブサーボでもその影響はアンプ出力を受け取る入力部分の820kΩと2.2uFによる時定数以下、あるいはその10倍程度の周波数以下の領域にしか及ばないのではないかと思っていたのだが、これを見ると4、5kHzという領域にも及んでいるということになる。

・う〜む。。。本当なのかなぁ。あるいは、この場合はオープンゲイン、ループゲインを求める式が妥当でないのかも(^^;?
・過渡特性はどうだろう?

・ということでパッシブサーボと同様に100kHz方形波応答波形と1MHz正弦波応答を占う。
・結果はこれだが、方形波応答の方は、波形の形自体には何の問題がないが、やはりDC電位が+5Vずれている。これに対して正弦波応答の方は形もDC電位にも何ら問題がない。

全くパッシブサーボの場合と同じだ。
・となると、パッシブサーボとこの形のオフセットコントールの違いは何なのだろう?

・オフセットやDC入力に対する抑圧作用は勿論アクティブサーボのオフセットコントロールの方が強い。

・が、後は同じ? なのではなかろうか。

・まぁ、信号増幅経路のNFBループにコンデンサーが入るか入らないかということがDCアンプ的には重大な違いだ。とは思うが。(^^;
・ところで、このラインアンプのスルー・レートについては最大で4.66mA/10pF=466V/uSが見込める。と、上の方でも書いた。

・とすれば、466V/uS=π*f*Vp−pなので、40Vp−p出力(ほぼこのCDラインアンプの最大出力電圧)でf=466000000/(3.14*40)=3.7MHzの正弦波を出力できることを期待できるということになる。

・ので、3.7MHz正弦波を40Vp−pで出力出来るかどうかをLTSpiceで占ってみよう。
 
・その結果はこう。

・まぁ、正弦波に見えないことはない。少なくとも三角波的にはなっていない。

・ので、466V/uSのスルーレートがあるのかもしれない。
・ので、正確に観るには方形波を過大入力してその立ち上がり波形部分を時間軸拡大してその傾きを見ればよいのでやってみる。

・100kHz方形波を過大入力して立ち上がりの応答を時間軸拡大してみたのがこれだが、まぁ、最大のところで0.04uSで18V強立ち上がっているので、18×25=450V/uS以上ではあるということになる。
・で、実機はどうか?なのだが、当然これをかなり下回るだろう。また、そんなに高速に立ち上がる発振器はないのでそもそも計れない。たとえあったとしても、そんなに高速に立ち上がる信号をアンプに入力してアンプにとって何も良いことはない。ので、実機の方のスルーレートは不明。(^^;
・また、この際、参考までに1kHz正弦波入力に対する出力正弦波のFFTを占っておこう。なお、負荷は他のヘッドフォンアンプと同条件にするため300Ωである。
・先ずは入力±1Vp−p。すなわち出力は±11Vp−p。

・高調波自体の分布及びレベルについてみると、最近作ったヘッドフォンアンプより良いようなのだが、何故か背景ノイズのグランドレベル?が周波数に反比例して高くなっている。これはやはりパッシブDCサーボのせいかなぁ。(^^;

・が、歪率としてはLTSpiceは、

Total Harmonic Distortion: 0.013864%。

・と占っており、これは最近拵えた上下対称電流帰還型ヘッドフォンアンプ、完全対称電圧帰還型ヘッドフォンアンプより優れている。

・のは、電源電圧がこれらより高いことも効いているだろう。
・次に入力レベルを±0.1286Vp−pとして、出力を±1.414Vp−p(すなわち1Vr.m.s.)にした場合。

・2次高調波が−110dB程度とこれも他のヘッドフォンアンプと同程度になっているが、やはり背景グランドノイズ?の現れ方は同じだ。やはりこれはDCに向かってゲインが減っていく(要するにACアンプ)の場合の現れ方なのだろう。

・が、歪率としては

・Total Harmonic Distortion: 0.000242%。

・やはりこれも、最近拵えた上下対称電流帰還型ヘッドフォンアンプ、完全対称電圧帰還型ヘッドフォンアンプより優れている。
・次に入力レベル±0.1286Vp−p、出力±1.414Vp−p(すなわち1Vr.m.s.)で、負荷30Ωの場合のFFT。

・やはり高調波が一気に増加するが、歪率は

Total Harmonic Distortion: 0.150124%。

・であり、これも最近拵えた上下対称電流帰還型ヘッドフォンアンプ、完全対称電圧帰還型ヘッドフォンアンプとの比較では最良値である。
・さて、最後に音だが、近頃拵えた上下対称電流帰還型ヘッドフォンアンプと完全対称電圧帰還型ヘッドフォンアンプ、そしてこのアンプをHD600で聴いて比べてみた。

・どれも似たような音だ。(爆)

・が、敢えて言えば、高域で負荷インピーダンスを担うコンデンサーの質が音の差として出ている感じはある。すなわち、それを主にSEコンデンサーが担っている完全対称電圧帰還型がやはり一番。半導体素子のCob等がそれを担っている上下対称電流帰還型と今回拵えたCDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプの音はやはり良く似ているが、完全対称電圧帰還型と比べてしまうと順位としては同着の2番と言わざるを得ない感じ。

・が、駄耳の私にはその差は僅かで、それぞれに十分に良い音。

・なので、このCDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプは演奏空間へワープする道具として存在してもらうことにした。(^^)







(2009年12月12日)






(その後:バッテリードライブ)



・時来たれり。

・故に我が“CDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプ”がバッテリードライブ化の仕儀となった。

・まぁ、こんな感じ。
・低電圧に対応するために、定電流回路のツェナーダイオードの電圧を下げ、抵抗値を小さいものに変更し、さらに2段目のカレントミラーをワイドラー型からウィルソン型に変更する。それで終了。

・ヘッドフォン利用も考えると終段2SA606と2SC960のエミッタ抵抗は、No−210のように5Ωに変更した方が電源電圧利用効率的にも良いが、とりあえず今回は10Ωのままにしておく。
・さしたる変更でもないので、基板を作り直すこともなく、従前基板上で部品の入れ替えをして作業終了。
・で、早速、その音を聴いてみる。
・ラインアンプぐらいでそんなに違うはずもなかろう。と、高をくくっていたのだが、一聴、あれ、なんとなく違う。。。

・聴くほどに、あら〜、一層空間が濃厚になった。

・空間の佇まいがあるがまま。と思えるほど。なので、とても心地よく音楽に聴き入ってしまう。(^^)

・やはり、バッテリーは良い。ということだろう。




(2010年9月25日)








(その後の2)



・2段目をウィルソン型カレントミラーにしたのは失敗だった。(^^;

・ので、ワイドラー型カレントミラーに戻した。そうするとエミッタ抵抗の電圧降下分マイナス側に電圧が必要なので、マイナス側もプラス側と同じくニッケル水素バッテリー6個で−7.2V電源とした。
・ウィルソン型にしてそのエミッタ抵抗を省略した場合、トランジスタの熱結合が至極密でないと、温度変化によってミラー精度が低下してしまうようで、出力のドリフトが大きくなってしまったのである。

・やはりウィルソン型にする場合はデュアルトランジスタが必須のようだ。

・が、デュアルトランジスタを起用することはしないで、もとのワイドラー型に戻して、トランジスタの温度伝達遅れやそもそも避け得ない温度差によるIcの誤差についてはエミッタ抵抗の降下電圧で呑み込む方式に戻した。
・勿論、ウィルソン型のままエミッタ抵抗を加えることも考えられる。が、2重に帰還作用を加えるものなんだし、そもそもそうするにはスペースが足りない。(^^;




(2010年10月28日)







(その後の3 電流伝送化)



・ある日、我が“CDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプ”を電流伝送化しようか、という気になった。

・かつて作った機器は、最早こうしないと使われる機会がない。

・ので、電流入力ラインアンプ兼ヘッドフォンアンプの製作。
・回路はこんなものでどうか。

・ラインアンプ兼用と言っても要するにヘッドフォンアンプであるから、近頃作ったPower IVC for Headphoneと同じ回路で作れば良い訳だが、同じものを作っても面白くないので、この際、終段同極性素子によるエミッタ接地SEPP回路を採用してみる。初段はベース接地シングル動作なので、2段目差動回路で位相反転しそのプッシュプル出力で終段をドライブする。

近頃作ったPower IVC for Headphoneもそうだが、この手のものはゲインを絞るほどに不安定になる(=発振)ものであるところ、これらは音量をゲインコントロールでゼロまで絞るのだから、上手く作らないと上手くない。


・先ずは、入力に1mAの電流入力があった場合の出力電圧―周波数特性をLTSpiceで観る。

・IV変換抵抗=帰還抵抗のR13を1Ω、10Ω、100Ω、1kΩ、10kΩとするパラメトリック解析。
・結果がこう。

上からR13が10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合。

・20dB間隔の特性は理論どおりである。

・が、R13が10Ω及び1Ωの場合の出力特性が高域で盛り上がっているのが気持ちの悪いところ。

・まぁ、その盛り上がりの程度が先のPower IVC for Headphoneと同じ程度なので大丈夫かもしれない。
・次に、トランスインピーダンス―周波数特性を観る。

・赤がオープントランスインピーダンス、青がクローズドトランスインピーダンス、緑が≒NFB量。

・オープントランスインピーダンス(赤)とクローズドトランスインピーダンス(青)は上から下へR13が10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合。NFB量(緑)は下から上へR13が10kΩ、1kΩ、100Ω、10Ω、1Ωの場合。

・単位はNFB量以外についてはΩをdB表示したものなので、オープントランスインピーダンス(赤)は、低域でR13が10kΩから1kΩまでは数百kΩ、100Ωの場合100kΩ弱、10Ωの場合10kΩ、1Ωの場合1kΩ弱。クローズドトランスインピーダンスは、R13が10kΩの場合10kΩ、1kΩの場合1kΩ、100Ωの場合100Ω、10Ωの場合10Ω、1Ωの場合は1Ω弱。

・で、これに電流入力があると、出力電圧=入力電流×クローズドトランスインピーダンスとなるから、出力の周波数特性はこのクローズドトランスインピーダンス(青)のとおりになる。上のグラフを観ると正にそうなっている。

・NFB量(緑)は、R13が10kΩの場合29dB、1kΩの場合46dB、100Ωの場合58dB、10Ωと1Ωの場合は60dB。
・発振するかどうかは、実際に信号を入力して試してみればよい。

・方形波応答で観るのが一目瞭然なので、100kHz方形波応答を観る。

・先ずは、R13=1Ωと一番厳しい状況でどうか。
・結果。

・緑が出力電圧応答だが、出力特性が高域で盛り上がっている故にプレシュート、オーバーシュート、アンダーシュートがあるものの発振までには至っておらず、これなら大丈夫だろう。

・併せて終段トランジスタのコレクタ電流(青と赤)の推移も表示しているが、適切にプッシュプル動作をしていることが分かる。
・以上で十分だが、次にR13を1Ω、10Ω、100Ω、1kΩ、10kΩとした場合の100kHz方形波応答を一挙にパラメトリック解析で観る。

・この場合、R13=10kΩの際に出力が飽和してしまうので、飽和しないよう電源電圧を±10Vとしてある。
・結果。

・ピンクがR13=10kΩの場合で、水色がR13=1kΩの場合だが、Log表示ではないので、R13が100Ω以下の場合の方形波応答は0ボルト付近で重なっている。

・全く妥当。
・方形波応答で終段素子に過大な貫通電流が流れないかどうか、最大出力程度の100kHz方形波応答で確認しておく。

・と、右の通りで、この程度なら問題はないだろう。
・次に、1kHz正弦波入力に対する出力正弦波のFFTを占う。

・IV変換抵抗=帰還抵抗のR13を1.414kΩとして出力電圧±1.414Vp−p(すなわち1Vr.m.s.)時のFFT。負荷は300Ω。
・最も多い2次高調波で基本波に対して−90数dB程度、3次で−100dB程度。

・LTSpiceの占う歪率は、

Total Harmonic Distortion: 0.002255%。

・同じ条件で前に作ったPower IVC for Headphoneは

Total Harmonic Distortion: 0.000163%

・だったから、それに比べると10倍以上も歪率が多い。

・折角終段を完全対称形式としたのに。。。
・が、あちらは電源電圧が±18Vなのに対しこちらは±7.2V。

・と、条件が悪い。

・ので、こちらも電源電圧を±18Vにして計測すると、右。

最も多い2次高調波で基本波に対して−100dB以下、3次で−105dB程度で、

・Total Harmonic Distortion: 0.000828%

・と、そんなに遜色はない。
・といったところで、実機を作る。回路はこう。

・即ち、実態はCDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプを電流伝送化したというより、
使われなくなっていたヘッドフォン(専用)アンプの実験 その後 5の基板を解体し、その部品を極力活用して電流伝送化したもの。なので、従前のCDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプの基板はそのままジャンクボックス行き。
・そして、従前のCDラインアンプ兼ヘッドフォンアンプの基板のあった場所にこれらの基板を据えて、配線し直しせば終了。

・問題なく音も出て、音量ゼロから最大まで動作に何の問題もなし。

・その辺、10kHzと100kHz方形波応答で動作を確認しておく。

・先ずは10kHz方形波応答。

・下が入力波形で上が出力波形。

・ボリューム最少付近。

・縦軸は、上も下も50mV/div、横軸は20uS/div。
・同上で、ボリューム最大の場合。

・この場合は上側の縦軸は2V/div。
・次に100kHz方形波応答。

・下が入力波形で上が出力波形。

・ボリューム最少付近。

・縦軸は、上も下も50mV/div、横軸は2uS/div。
・同上で、ボリューム最大の場合。

・この場合は上側の縦軸は2V/div。


何も問題ないことが分かる。
・で、その音は、

・良いねぇ。電流伝送、言うことなし。



2013年2月1日